この照らす日月の下は……

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 キラの友人達がアメノミハシラを去り、誰に気兼ねをすることもなくなったからか。ギナの行動は派手になった。それに付き合わされているカナードの消耗具合からどれだけのことをしているのかと思わずにいられない。
 しかし、だ。
 ギナ直々の命令でキラはこれ以上、この件に関われなくなってしまった。
「……僕だってできるのに」
 ほほを膨らませながらそうつぶやく。
「あきらめろ。お前にはそういうことは似合わないからな」
 地球軍に三行半を突きつけて戻ってきたムウが笑いながらそう言い返してくる。
「ムウ兄さんは戻ってきてよかったの?」
「地球軍にいるよりこっちの方が気楽だしな。それに、いい加減いいタイミングだ」
 ラウと違って自分はこの戦争が終わるまであちらにいるつもりはなかった。彼はそう続ける。
「……なら、いいけど……」
 キラの言葉に彼は苦笑を浮かべた。そのまま小さな頃のように彼女の体を膝の上に抱き上げる。
「安心しろ。あいつらもお前の技量が劣っているとは思っていない。むしろ逆だ」
 そのまま背中をなでながら彼はささやくように言葉を綴る。
「それなら、どうして……」
「こういうことはな。最後まで手を抜いちゃだめなんだよ。お前は優しいからな。最後の最後で温情を与えかねない。それが相手につけいる隙を作りかねない」
 それがキラのいいところだから、無理をさせてつぶしたくなかったのだろう。ムウはそう言ってくれる。
「それに、ああいった搦め手はギナの攻撃の中には入っていなかったからな。アイディアだけでも十分貢献している」
 言葉とともに彼の手がキラの頭をなでてくれた。それは本当に久々だ。
「何よりも、被害が少ない」
「……それはそうだけど」
「ギナも楽しんでいるんだから、まぁ、今回は譲ってやれ」
 あいつがおとなしくしているだけでも、ミナが動きやすくなる。そう言われても素直にうなずけない。
「黙ってみているだけなんて」
「男には女性に見られたくないものもあるんだぞ」
 必要なときに手綱を締めるだけでいい。そう言って笑われてはもう何も言えない。
「まぁ、暇なら俺に付き合ってくれ」
 その方が有意義だろう、と言う問いかけにそうなのだろうかと悩むキラだった。

『セイランの不正の証拠が出てきた』
 カガリが満面の笑みとともにそう言ってくる。
『これであそこの馬鹿息子との婚約話は流れた!』
 それでこんなに機嫌がいいのか、とキラは納得した。
「よかったね」
『全くだ。あいつはろくなことをしなかったからな』
 地球軍に資財の横流しをしていたなんて、とカガリは言う。それがなくなれば地球軍もうかつに戦力増強をできなくなるはずだ。彼女はそうも続ける。
『内々だが、地球連邦の穏健派から停戦の条件についてプラントとすりあわせたいという声が届いている』
 おそらく民衆の声を無視できなくなってきているのだろう。その言葉に、いったいギナ達はどのような工作をしたのかと疑問に思う。
「ウズミ様が動くの?」
『あぁ。ラクスに伝言があるなら聞いておくぞ』
 にやりと笑いながらカガリが問いかけてくる。
「急に言われても……元気でやってるなら、それで十分だよ」
 笑っていてくれればもっといい。そう付け加えた。
「そうすればまた会えるでしょう?」
『確かにそうだな』
 キラの言葉にカガリもうなずく。
『どうせなら、ラクスをこちらに呼ぶか』
「カガリ?」
 とんでもないことを言い出した相手に、キラは思わずそう呼びかける。
『お父様に協力してもらうが……あいつらのせいでだめになった友好式典をやり直すと言えばあちらもだめだとは言わないだろう』
 何よりも、とカガリは笑みを深める。
「……それなら問題はないのかな?」
 いくらウズミがカガリをかわいがっていても、外交に関わることでは別ではないか。下手にあちらに借りを作っては後々困ることになるような気がする。しかし、以前だめになったことをやり直すというのであればかまわないのか。
『それに、私たちは一緒に旅をした仲だしな」
「あれは『旅』っていっていいの?」
『かまわないだろう。ヘリオポリスからあそこまで移動してきたんだし……待遇は最悪だったが』
 ムウがいなければもっと悲惨だったろうな、とカガリは言う。
「兄さん、帰ってきてるよ」
『そうか。しばらくはそこでおとなしくしてもらうしかないな』
「本人もそう言ってた」
『二つ名までつけられるぐらい目立ったからな、あの人は……』
 それはそれで仕方がないのだが、と付け加えた後で彼女は笑う。
『確か『エンデュミオンの鷹』だったか? 派手な二つ名だよな』
 それはキラも思った。しかし、本人がつけたわけではないのだから、笑うのは違うのではないか。
『ともかく、二、三年の辛抱だな』
 戦争さえ終わってしまえば、後は何とでもなる。その言葉にはキラも同意だ。
「そうすれば、僕もそっちに行けるし」
 危ないからという理由で、未だに本土に降りることができない。そのせいで両親とも回線越しにしか顔を合わせられないのだ。
『安心しろ。それは今月中にもなんとかする』
 カガリはそう言ってほほえむ。
「だといいな」
 そんな彼女に向けてキラもほほえみ返した。


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最遊釈厄伝